社会保険の「106万円の壁」撤廃へ

2025年5月16日、「社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律案」が通常国会に提出されました。
この法案の柱の一つは、社会保険の扶養から外れるラインが改正され、社会保険(厚生年金・健康保険)の加入対象を大幅に拡大することです。
これにより、従来は扶養内で働いていたパート・アルバイトも、企業規模に関係なく社会保険の加入対象となる可能性が高まります。
*2025年6月13日、年金制度改正法が成立しました。
これにより、すべての企業が「週20時間」パートを社会保険に加入させる日が決まりました。
(1)年収106万円の壁とは
現在の社会保険の加入要件
(2)改正案
①賃金要件
②企業規模要件
③時期
(3)個人事業所への適用拡大
①現在の加入要件
②改正案
(4)経営者が今、考えるべきこと
(5)まとめ
(1)年収106万円の壁とは
年収106万円の壁とは、社会保険の扶養から外れるラインです。
<現在の社会保険の加入要件>
①適用事業所で働く正社員の方
②パート・アルバイトでも、1週間の所定労働時間および1ヶ月の所定労働日数が、同じ事業所で同様の業務に従事している正社員の4分の3以上である人
③週所定労働時間等が正社員の4分の3未満であっても、以下の要件を満たす人は、短時間労働者として被保険者になります。
a 週の所定労働時間が20時間以上あること
b 所定内賃金が月額8.8万円以上であること(賃金要件)→いわゆる106万円の壁
c 学生でないこと
d従業員数51人以上の企業で勤務している(企業規模要件)
そのため、従業員数51人以上の企業で勤務しているパート・アルバイトは、週所定労働時間が正社員の4分の3未満でも、上記の要件をすべて満たすと社会保険の扶養から外れ、自分で社会保険に加入することが必要になります。
*月額8.8万円以上は、基本給及び諸手当を指します。ただし、通勤手当・残業代・賞与等は含みません。
(2)改正案
①賃金要件
上記③b の所定内賃金が月額8.8万円以上であること(賃金要件) が撤廃されます。
(つまり「106万円の壁」は実質撤廃されます。)
②企業規模
上記③d の「従業員51人以上の適用事業所」という企業規模要件について、10年かけて段階的に対象を拡大。 最終的には、すべての適用事業所が短時間労働者として社会保険に加入する内容になっています。
週20時間以上働く短時間労働者に対し、これまで「従業員51人以上」の企業に限っていた社会保険に加入する義務が段階的に引き下げられ、最終的に「すべての企業」に適用されます。
2024年10月➡「従業員51人以上」
2027年10月➡「従業員36人以上」
2029年10月➡「従業員21人以上」
2032年10月➡「従業員11人以上」
2035年10月➡全企業対象(従業員数の制限なし)
③時期
全国の最低賃金が1,016円以上になりそうであれば、106万円の壁を撤廃する方向です。
3年以内の廃止という内容であり、施行日は「公布から3年以内で政令の定める日」となっているため、2026年、2027年の秋と予想されます。
(3)個人事業所への適用拡大
①現在の加入要件
個人事業所は、原則として従業員5人以上であれば適用事業になります。
ただし、法律で定める農業、林業、漁業、宿泊業、飲食サービス業等の17の業種は適用除外となっています。
②改正案
これまで加入が任意となっていた業種の、従業員が常時5人以上いる個人事業所について、2029年10月以降は適用事業所となる方向です。
この際、経過措置として、施行時にすでに存在する個人事業所については、当面期限を定めず適用除外。
5人未満の個人事業所については引き続き、適用事業所とはならず、会社と従業員とで合意したときには、任意で適用事業所となる任意包括適用の制度の対象となります。


詳細はこちらをご覧ください。
厚生労働省「年金制度改正法案が成立しました。」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000147284_00017.html
年金制度総論
https://www.mhlw.go.jp/content/12500000/001498418.pdf
(4)経営者が今、考えるべきこと
✅ うちは何年後に対象になるのか?
✅ 短時間労働者に社会保険を適用した場合、人件費はどう変わるか?
✅ 扶養内パートの希望者への対応は?
✅ 就業規則・雇用契約の見直しが必要では?
✅ 将来の人財確保のためにはどのように設計したらよいか?
(5)まとめ
この改正は、中小企業にとって、「働き方改革」「人財確保」にも直結します。
どう働くか、どう働かせるか、どう生きるか。働く人にとっても、組織にとっても、設計し直すタイミングです。
早めの情報収集が必要になります。
お気軽にお問い合わせください。